ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS) (Fx COMICS)

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS) (Fx COMICS)

 ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS) (Fx COMICS)
 出版社:太田出版
 発売日:2007-12-18
 レビュー評価の平均:(3.5)

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レビュー評価:(5)
救われない話だ。
期待は報われず失意に変わる。
希望は裏切られる為に存在する。

特に印象的なのは第二話「友達」。
少女が刑務所で再会したのは孤児院時代の親友。
囚人たちに日毎陵辱され生き地獄を味わいながらも、不遇な少女は壁越しの友に慰めを得て、「一週間生き延びれば再び馬車が迎えに来る」と信じて待つのだが……

彼女が聞いた友の声の正体はなんだったのか。
絶望の淵の妄想か、
苦境の友を救わんとした天の声か。

けれども他の少女より多く生き延びた事で彼女が体験したものは更なる生き地獄と想像を絶する苦痛。だとすれば少女のもとへ舞い降りた救済の声は、ドレスを引き裂かれた友の復讐だったのか……。

悲哀、絶望、慟哭、戦慄。

読後、鬱屈した想いが残る。
残虐の一言では片付けられない。
単なる悪趣味ではない。
この作品に何らかの救いを期待して読んだ者が激しいショックを受けるのもわかる。

けれども、真実における救いなんてものはそうそうない。
善良な者が必ずしも報われ幸せになるとは限らないのが現実。
悲劇のはてに必ず救いが訪れるというのは虚構の上に成り立つご都合主義、
「そうあってほしい」と願う読者の勝手な思い込みに過ぎない。

勧善懲悪のカタルシスが得られぬ虚構もまた存在する。
この作品における孤児の少女が象徴する弱者は、権威ある者が提唱する社会秩序を守る為の「生贄」として犠牲になる。
それこそが虚構の裏にひそむ、誰もが目を背けたがる現実の一面ではないか。
私達が卑劣にも目を閉じて背けて無かったことにしたがるそれこそ、真実の一旦ではないか。

少女達を襲う運命は確かに酷い。
だが、現実の方がもっと酷い。

レビュー評価:(5)
この作品に嫌悪感を示す方がおられることはしょうがないことだとは思う。

しかし、「無限の住人」などから入られた方までもがそうであることには、正直なところ首を捻ってしまう。当作品の方が描き方が強烈であることは間違いないが、たとえその他の活動をフォローしていなくても、「無限の住人」だけを読んでいても、この作品と当然のように地続きであると感じられるように思うのだが……。

細かい内容については既に皆様が多数触れておられるので新しく書くことはしないが、ただ1つあげるなら、とにかく淡々と感情を排した描写に徹しているのには恐れ入る。それこそが最も読む人間の魂を侵食することを沙村先生は知っておられるのだろう。具体的に少女がどのような目に遭ったのかはまったく描かれない話など、心底震えを覚えたものだ。

そして、この作品を強く否定しておられるレビュアーの方が触れておられた、実にさらっとして、次作は女子高生云々と述べておられるあとがきは、確かに爽やかすぎるほどに最悪で強烈である。

――ただ、あるのだが、しかしこれは、そのまま受け取るべきではないと僕は思う。

この作品を強く支持する僕や、星を多く与えられたレビュアーの皆様、そして沙村先生は、この作品に描かれているような出来事に、美しさを見出したり、どうしようもなくカタルシスを感じてしまう人間であることは間違いない(さらに言うなら、おそらくはこの作品を許容できる事由の一つに、この作品で不幸な目に遭うのは少女たちであり、自分は男だということがある、ということも含め)。そして、恐らく沙村先生は、そんな自分のことを、心からどうしようもない人間であると、半ば諦めの境地にすら立って冷笑している部分がおありになるのではないだろうか。少なくとも、僕の場合はそうだ。

そしてそのような場合、せめてそんな自分を曝け出し、確実に不愉快になるであろう人がいることが分かりきっているこのような作品を生み出してしまった人間が、その責めを負う覚悟として、このようなあとがきを書かざるを得なかった――そのような側面もあるのではないだろうか。

もしもそうであったなら、もしかしたら、このカスタマーレビュー一覧を眺めて、先生は安堵の溜息を漏らしているのかもしれない。

レビュー評価:(5)
「かつてこれほど残酷な、少女の運命があっただろうか」という帯にひかれて読んでみましたが、うちのめされました。
これは、女性にはきつすぎる話です。
しかし、こういうことが実際あったかもしれないと思えてしまうほどリアルで、恐らくはこういうことがあってもおかしくないと思えてしまえる話だから恐ろしい。

貴族の養女になり、その後はその貴族が運営する歌劇団でスターになっていくことを夢見た少女たちのその後の運命と、彼女らに関わった人たちの運命を描いた話です。
作者はその『過酷な運命』を淡々と描いていて、感情的な描写をいっさいしていません。
それが人間のおぞましい部分を浮き彫りにし、逆に「本当にあったことのように」感じるほどのリアルさがあります。

読んだ後、壮絶に暗い気持ちになります。
しかし、一読する価値あり。
この話をどう受け止め、どう考えるか、しばし自分の中で逡巡する時間が必要な。
そんな話でした。

レビュー評価:(5)
誰も言及していないのが不思議です。絵で見せられたものが強烈なだけに、それに囚われていては本作の最もグロテスクな部分は見えてこないでしょう。
 肉体の破壊や性的暴力が作者の画力によって眼前に突きつけられる。しかし、より残酷なのは舞台設定ではないでしょうか。
 孤児が貴族に引き取られて歌劇団として華々しく表舞台に立てる。
 選ばれれば明るい将来が待っている。
 一週間耐えれば。

 そして迎えに来る馬車。私にはこれらの設定の方が、描写されるエログロよりもはるかに残酷なものだと感じられるのです。第五話はこの設定のみが作り出した残酷劇。

 甘く華やかな夢想は厳しすぎる現実に突き落とされ、その陰ではその現実にまとわりつかれて奈落へと沈む者達もいる。「沙村版・赤毛のアン」を目指したという巻末の言葉に、なるほど、と納得した作品。

 そもそも、ヨーロッパで孤児がどのような扱いを受けていたのか、運良く生き延びてもどのように生きることになったか知っている人間なら、この程度をエログロとは思いません。

レビュー評価:(5)
お恥ずかしい話で沙村作品を全く知らず、とある雑誌の書評を見て、凄く興味を引かれて購入しました。
ここのレビューの混沌加減を見て、怖気づきはしましたが…興味には勝てませんでした。
最終的には買ってよかったなと思ってます。

表面的なもの(絵的な描写、設定)だけを見れば、嫌悪感を示す人がいらっしゃるのも分かりますが、それだけじゃないと思います。もっと深い。
絶対的な絶望を突きつけられ、逃れ得ない状況の中で(第3者の目で見れば残酷な運命でしかないのに)心が救われる少女もいる。2話と6話が特に鳥肌モノでした。
絶望と希望の混在…とでも言うのでしょうか、その加減が素晴らしいと思います。
人間の、人間ゆえの汚い部分、そして美しい部分。
汚いもの、見たくないものを排除するのは簡単ですが、それをしっかり見つめた先に、見えてくるものもあるのではないでしょうか。

残酷な描写、と言うならば、私は『本当は残酷なグリム童話』などの方がよっぽど残酷だと思います。
それに、もっとグロテスクで、もっと問題視されるべき作品は山とある気がします。

決して星1つではない、と思いました。


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